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2021.11.14

第四回:今更聞けない…メチシリン耐性遺伝子mecAについて徹底解説①

本年の夏に弊細菌検査は大型アップデートを行いました。その中の一つに、メチシリン耐性遺伝子mecAのPCR検査があります。

そもそもアップデート前から「メチシリン耐性」だの「mecA」だの小耳に挟むものの、詳細はよく分からない…そんなことはありませんか?

ということで、第四/五回は『メチシリン耐性遺伝子mecA』につい徹底的に解説していきたいと思います。

第四回:①ブドウ球菌とペニシリン
    ②ペニシリナーゼ産生ブドウ球菌の誕生
    ③抗菌薬メチシリンの誕生
    ④メチシリン耐性/mecA保有ブドウ球菌の出現

第五回:⑤メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とペニシリン系抗菌薬
    ⑥メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とβラクタム系抗菌薬
    ⑦メチシリン耐性ブドウ球菌を減らすために

目次は以上の通りです。二本立てですが、是非一緒に学んで行きましょう♪

①ブドウ球菌とペニシリン

1928年、イギリスのフレミング博士はブドウ球菌のシャーレにコンタミした青カビに抗菌作用があることを見つけ、世界で初めての抗菌薬「ペニシリン」を発見しました。

ブドウ球菌はグラム陽性球菌で、細胞壁(硬い殻のようなもの)を持ちます。

グラム陽性細菌は細胞壁の素(ペプチドグリカン)をタンパクの糊(ペニシリン結合タンパク:PBP)でくっつけて細胞壁を作ります。

ペニシリンは細胞壁の素の一部ととてもよく似ているので、タンパクの糊と誤ってくっついてしまいます。すると、細菌は細胞壁を作ることができず、死んでしまうというわけです。

[まとめ①:抗菌薬ペニシリンは細胞壁合成を阻害することにより、ブドウ球菌などの細菌の生育を抑制する]

②ペニシリナーゼ産生ブドウ球菌の誕生

ペニシリンを使ってブドウ球菌をやっつけるうちに、ブドウ球菌にも知恵がついてきます。

「ペニシリンがあると生きられないなら、ペニシリンを壊せばいいじゃない!」

ということで、ペニシリン分解酵素:ペニシリナーゼを産生するブドウ球菌が誕生しました。

[まとめ②:ブドウ球菌はペニシリン分解酵素:ペニシリナーゼを産生することで、抗菌薬ペニシリンに対抗する]

③抗菌薬メチシリンの誕生

ペニシリナーゼによって抗菌薬ペニシリンが効かなくなると、人類も対抗して新たな抗菌薬を作りました。このうちの一つが抗菌薬「メチシリン」です。

メチシリンはペニシリナーゼによって分解されにくい性質を持っており(ペニシリナーゼ抵抗性)、ペニシリナーゼ産生ブドウ球菌にもよく効きました。

[まとめ③:ペニシリナーゼ抵抗性の抗菌薬としてメチシリンが開発された]

④メチシリン耐性/mecA保有ブドウ球菌の出現

New抗菌薬メチシリンのおかげで、ブドウ球菌はまた生きにくくなってしまいました。

ここで一部のブドウ球菌は逆転の発想をします。「そもそも細胞壁の素(ペプチドグリカン)とペニシリンを間違えなければいいんだ!」本当に賢いですよね(笑)

①の内容を思い出して、そもそもタンパクの糊(ペニシリン結合タンパク:PBP)が細胞壁の素(ペプチドグリカン)とペニシリンを誤認識するのが原因ですので、認識精度の高いタンパクの糊(ペニシリン結合タンパク質:PBP)があればいい。

ということで新たなペニシリン結合タンパク(PBP2aまたはPBP2’)を産生するブドウ球菌が出現します。これをメチシリン耐性ブドウ球菌といい、新たなペニシリン結合タンパクをコードする遺伝子をmecA遺伝子というのです。

[まとめ④:抗菌薬メチシリンに対抗するため、ブドウ球菌は新たなペニシリン結合タンパク:PBP2aまたはPBP2’産生するようになった/これをコードする遺伝子をmecA、これを産生するブドウ球菌をメチシリン耐性ブドウ球菌という]

今回の記事はメチシリン耐性/mecA保有ブドウ球菌が出現するところまで解説しました。

次回はメチシリン耐性/mecA保有ブドウ球菌だとどんな問題があるか、またどういった対策が必要か、について考えていきます。

監修:獣医師・獣医学博士​​ 伊從慶太