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犬の表在性膿皮症(細菌性毛包炎)の診断・治療ガイドラインは、2014年にAntimicrobial Guidelines Working Group of the International Society for Companion Animal Infectious Diseasesによって発表されました
(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/vde.12118)。
2024年7月25〜29日にアメリカ・ボストンで開催される世界獣医皮膚科学会で、膿皮症に関するアップデートがあるかもしれません。とは言え、診断に関しては大きく変わることがないと思うので、このタイミングで復習しておきましょう!
世界獣医皮膚科学会においてアップデートがあれば、改めてシェア致しますね。
今回はこちらのガイドラインの概要と、アジア獣医皮膚科専門医である伊從慶太が皮膚科診療で注意している点を交えて犬の膿皮症の診断について解説します。
まずは表在性膿皮症に典型的な臨床症状をとらえることです。皆さんが臨床的に多く遭遇しやすいのは下記3パターンかと思います。
毛孔に一致した丘疹や膿疱は肉眼的に見極めるのは難しい場合があります。ライト付きのルーペ、ダーモスコープを利用すると判別が容易です。
細胞診サンプルはできれば丘疹や膿疱といった新鮮な原発疹から行います。これらの発疹が存在し、そこから細菌感染像が細胞診で観察出来れば、膿皮症の可能性がかなり高くなります。
細胞診では、球菌の増殖、好中球浸潤および菌の貪食像を確認します。変性した好中球や核の過分葉、破砕像が見えることもあります。
細胞診の染色はディフクイックなどの簡易染色が一般的に行われますが、グラム染色も並行して行うようにしましょう。グラム染色で菌名まで推定できる場合があります。
グラム染色で検出された球菌がグラム陽性球菌であれば、犬の表在性膿皮症の主要な起因菌であるブドウ球菌(特にS. pseudintermedius)と推定できる
鑑別の上で最も重要となるものは、その他の毛包感染症です。特に毛包虫症と皮膚糸状菌症は徹底的に鑑別しましょう。これらの鑑別は毛鏡検、皮膚掻爬物直接鏡検、ウッド灯検査、真菌培養検査で行えます。
イソオキサゾリン系駆虫薬を定期的に外部寄生虫予防で使用している場合は、毛包虫症に罹患している可能性は低いでしょう。また、その他の動物(特に猫)や土と接触することのない症例は皮膚糸状菌の可能性は低いと考えます。生活環境や予防状況も合わせて確認しましょう。
ガイドラインでは、以下の5つの状況で細菌培養検査を推奨しています。
① 抗菌薬の全身投与を2週間行っても50%以上症状が改善しない
② 初期の抗菌療法の2週間以降に新しい病変が発生する
③ 抗菌療法を6週間行っても病変が残存し、細胞診で球菌が検出される
④ 細胞診で桿菌が検出される
⑤ 症例あるいは同居動物に多剤耐性菌感染の既往歴がある
皮膚科診療では、近年の薬剤耐性ブドウ球菌の蔓延状況を鑑み、可能な限り初診時に細菌培養検査の実施が推奨されます。但し、先行して抗菌療法を行い、その結果によって検査実施を判断するという工程でも間違いではないと言えます。
犬の膿皮症の主な起因菌であるS. pseudintermediusの同定には、PCR法などが必要です。同定を誤った方法で行ってしまうと、正確な薬剤感受性試験ができません。ヒトの検査機関では、S. pseudintermediusを誤同定されるリスクがあります。また、小動物医療領域で利用可能なクイック感受性検査は、菌種を同定しないため、全く意味のない(感受性検査ができるわけがない)検査ですので注意しましょう。
症例に使用する可能性がある、病院に取り揃えている抗菌薬を調べてもらえる機関が良いでしょう。
近年、国内で猛威を振るっている耐性菌はメチシリン耐性ブドウ球菌は、すべてのβ-ラクタム系抗菌薬に低親和性であり、使用しても効果は乏しいです。メチシリン耐性の場合、検査結果上では感受性(S)と表示されていても、抗菌薬の効果が乏しい可能性が極めて高いため、「何故、検査結果通りに抗菌薬投与したのに効果がないの!?」という事が起こりえます。
ブドウ球菌のメチシリン耐性の有無を特定するためには、mecA遺伝子のPCR検査が必要となります。mecA遺伝子まで特定してくれる機関を選ぶと良いでしょう。
犬の副腎皮質亢進症の診断をするためにコルチゾール値を測定するかと思いますが、低値、正常、グレーゾーン、高値の基準が存在します。実際に測定された値を臨床医が判断し、治療法を調整するかと思います。実は、細菌の薬剤感受性試験も同じなのです。薬剤感受性試験には感受性・耐性の判定基準が存在し、その基準よりどの程度の差があるかによって感受性や耐性の程度を推測できます。
例えばS. pseudintermediusのセファレキシンのディスク拡散法で感受性である基準は阻止円が18 mmですが、18 mmギリギリの阻止円が形成された菌よりも 25 mmの阻止円が形成された菌の方が、セファレキシンが効果を示す可能性が高いと言えます。
感受性と判定されたのに、イマイチ抗菌薬が効かない症例がいる理由の一つにはこのような背景があります。したがって、ただ単に感受性、中間、耐性のみの結果が返ってくる検査機関では抗菌薬の選択は困難です。
感受性検査の判定基準と測定値を開示する検査機関を選択することが極めて抗菌薬選択において重要となります。これはブドウ球菌のみならず、ブドウ球菌以外の細菌感染症でも同じことです。
犬の表在性膿皮症の管理のためには、先行疾患を同定・管理することが重要です。2018年に報告された犬の再発性膿皮症の先行疾患の解析で(Seckerdieck F, et al, Vet Rec, 2018)、最も高率に認められるのは犬アトピー性皮膚炎や皮膚食物有害反応です(64%)。
また、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症をはじめとした内分泌疾患が17%で認められています。若齢時より膿皮症を認め、かゆみが強い場合はアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの可能性を追求します。かゆみが表在性膿皮症に起因しているか、あるいはアレルギー性疾患に起因しているかの鑑別が重要です。
表在性膿皮症への適切な抗菌療法をおこなった後に、膿皮症の発疹が消失するもののかゆみが残る症例はアレルギー性疾患が背景にある可能性が高くなります。一方、中高齢から膿皮症を発症した症例で、活動性、食欲、体重、脈拍、飲水量、尿量、便性状などの変動がある場合は、スクリーニング検査(血液、尿、糞便、画像、内分泌検査など)を積極的に実施しましょう。
検査機関選定紹介したの4つのポイントの内、3つを満たしているのが私たちの細菌検査となります。
どうぶつの細菌検査では専門医/専門家が選定した抗菌薬をセットにして提供しております。『皮膚検査セット』では、獣医皮膚科専門医である伊從慶太が監修した『皮膚病で選びたい抗菌薬』を初めからセットにしており、利用者が自由に選べる訳ではございません。
※追加抗菌薬として選ぶことは可能です
質量分析器MALDI-TOF-MSを用いて、正確な菌種同定を実施しております。従来、細菌検査センターでは生化学性状検査で細菌同定検査を実施する手法が取り入れられてきましたが、感度/特異度には限界がありました。質量分析器MALDI-TOF-MSは高価な機器である事もあり、まだまだ生化学性状検査で細菌同定検査を実施する細菌検査センターが多いのが現状です。
遺伝子のPCR検査を無料で実施しております。
阻止円のサイズを明記しております。これにより抗菌薬選択の精度が上がると、利用動物病院様には好評の声を頂いております。
その他、何菌種検出されても同一料金、未検出の場合再検査無料など、価格面のおいても、動物病院の皆さんがご利用しやすいよう工夫をしております。是非ご利用をご検討ください。