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2023.3.13
細菌検査の魅力

第二十一回:感染症診療の原理原則

第74回獣医師国家試験も終わり、4月には新たに獣医師が増えるという病院も多いのではないでしょうか?国家試験では抗菌薬の名前や作用機序は出題されますが、感染症を疑う症例での問診のとりかたや、抗菌薬選択までの流れは出てきませんよね。


ということは!感染症診療に関するレクチャーが改めて必要になります。この記事では感染症診療の原理原則をお伝えしていますので、日々の診療のアップデートに、そして新たに加わる獣医師の教育研修にご活用ください!

感染症診療の原理原則

Point
以下に記載した流れを逆走しないことが極めて重要です!

①問診での患者背景の理解

どんな症例でも大切ですが、主訴や問題箇所はもちろんのこと、問診で聞きそびれやすいことを挙げます。

・感染症を引き起こしやすい特徴(クッシング、甲状腺機能亢進・低下など)
・感染症を重症化させる事象(糖尿病、抗がん剤投与中、術後など)
・投薬歴、副作用

※抗菌薬は1ヶ月以内に投与されたものに対して耐性を示すことが多いとの報告があり

例えばクッシングで免疫が低下している膿皮症の症例を、膿皮症だけにフォーカスして抗菌薬で管理しようとしても、個体の免疫が低下したままだと再発することがあります。

②感染臓器の絞り込み

①の問診で聴取した内容や、目の前の患動物たちの症状から感染臓器の推定を行います。
その後、身体検査や血液検査、画像診断、細胞診など推定の感染部位に適した検査を実施して、感染臓器を推定・特定します。

原因菌の推定

感染臓器ごとに検出頻度が高い細菌が絞られます。ここで重要なのが『染色』です。

こちらをご覧ください。

この検体には2菌種が存在し、同じ色で囲われている菌が同一菌種です。クイック染色だけでは菌種の絞り込みは大変難しいと考えられます。
一方、グラム染色によって2菌種の存在を確認することが出来ています。

例えば、皮膚で検出されたのがグラム陽性球菌ならブドウ球菌、尿でグラム陰性菌なら大腸菌、など菌種を絞る大変有用なツールです!

「臨床現場でそんな時間ない…」というお声も聞こえてきそうですが、たった5分で感染症診療の精度がグンッと上がるので、ぜひ”グラム染色”を実施してみてください。

④抗菌薬の選択

感染臓器を絞り込み、原因菌を推定出来たら、抗菌薬の選択で意識すべきは以下4点です。

・抗菌スペクトル
抗菌薬にはそれぞれ”グラム陽性菌が得意””グラム陰性菌が得意”といった特徴が存在します。

・エスカレーション療法 (狭域スペクトルの抗菌薬から選択すること)
・感染臓器への移行性
・動物薬の有無

Attenntion
以下の理由から、抗菌薬投与前に細菌培養検査に出すことを推奨しています!

・経験的投与で良化しなかった場合、選択の妥当性の判断するため
・次の抗菌薬選択のデータを得るため
・顕微鏡だけではわからない菌種の同定や菌それぞれの耐性を知るため

⑤最後に転帰の確認!

正しく細菌感染症と診断でき、正しく抗菌薬選択ができれば速やかに一般状態は改善するはずです。
もしも、良化も悪化もしない場合には…

・届かない
・効かない
・足りない
・勘違い

の可能性を疑って、今一度治療方針を見直してみてください!

※この原理原則は”細菌感染症”を疑う症例でご活用ください。
感染症ではないのにも関わらず抗菌薬を投与することがないように、非感染性疾患の除外や感染の成立(細胞診での菌体や炎症性細胞による細菌の貪食像の確認)を行ってください。

出典:農林水産省『愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き』

細菌検査事業部 獣医師 石原 紗羽