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2021.10.15

第二回:もう怖くない!!正しい嫌気検査のための採取方法

いつも弊社の細菌検査をご愛顧いただき誠にありがとうございます。

前回に引き続き、『こうすればもっと上手く細菌検査を活用出来る!』情報をお届けします。

第二回は『より検出率の高い嫌気性菌の採材方法』について考えていきます。

①嫌気性菌とは

②嫌気性菌感染症を疑うポイント

③嫌気性菌の採取方法

上記について一つずつ解説します。

①【予備知識】嫌気性菌とは

嫌気性菌について、まずは予備知識と定義のすり合わせをしたいと思います。

嫌気性菌は字の通り、空気(酸素)が嫌いな細菌です。’嫌い’にも度合いがあり、以下の二種類に分けられます。

・酸素があっても生きられる嫌気性菌=通性嫌気性菌

・酸素があると生きられない嫌気性菌=偏性嫌気性菌

本記事及び弊社細菌検査における『嫌気性菌』は全て’偏性嫌気性菌’を意味します。

*ちなみにメジャーな細菌の多くは通性嫌気性菌であり、ブドウ球菌や大腸菌もこれに分類されます。通性嫌気性菌は酸素があっても検出されるので、通常の細菌検査で問題なく分離されます。

一方、『(偏性)嫌気性菌』は無酸素状態で培養する必要がありますので、弊社ではオプション検査である’嫌気検査’にて対応しております。

②【嫌気検査】嫌気性菌感染症を疑うポイント

細菌感染が疑われる際、嫌気検査を行うべきか否か。悩ましい問題ですよね。

『臨床材料分離菌の中で嫌気性菌の占める頻度は約10%(臨床微生物検査ハンドブック/第5版)』という統計がありますが、対象部位によって検出率に大きく差があります。

差が出る要因は以下の2点です。

 (1)嫌気培養の意義(病原性嫌気性菌が検出される可能性)

 (2)常在菌による汚染度

嫌気培養の意義(病原性嫌気性菌が検出される可能性)が高ければ嫌気検査を実施する、これについては疑念の余地がないと思います。2つ目の要因である常在菌による汚染についてですが、これは常在菌の多くが通性嫌気性のため嫌気培養をしても(偏性)嫌気性菌のみを分離することが難しく、結果検出率が低くなってしまいます。

これら2点を考慮して嫌気検査を行う重要度で分類すると、以下のようになります。

重要度高:関節液, 手術時採取材料, など(弊検査対象外:血液, 髄液, など)

  ↑    吸引痰, 吸引物(耳鼻以外), など

  ↓    口腔, 耳鼻咽頭部吸引物, 腹水, 胆汁, 皮膚の深部感染/膿瘍など

重要度低:鼻咽頭, 歯肉, 喀痰, 膣, 腸, 尿, など

ただし嫌気検査の重要度が低いカテゴリーの検体でも、以下の場合には嫌気性菌感染症を疑って下さい。

・悪臭を伴う場合(但し、悪臭を発生しない嫌気性菌も存在する)

・グラム染色で細菌感染の所見が見られるにも関わらず、好気培養で菌未検出となる場合

③【嫌気検査】嫌気性菌の採取方法

嫌気性菌を採取する際には空気に触れないよう、とにかく『すばやく』行うのがポイントになります。

また、輸送には専用の容器を用いる必要があります。容器は主に以下の二種類があります。

 (1)嫌気ポーター

 (2)スワブ(嫌気性菌対応のもの)

嫌気ポーターは自立式の試験管で、炭酸ガスが充填してあります。このガスがあることによって嫌気状態が保たれているので、検体を入れる際には炭酸ガスが抜けないようにする必要があります。

・容器を立てて置く(二酸化炭素は空気よりも重いため、縦に置くとガスが漏れにくい)

・【注射針】ゴム栓をアルコール綿で拭き、注射針でゴム栓の上から差込んで検体を注入する

・【注射針以外】ゴム栓を開けたらすばやく検体を入れ、蓋をする

嫌気ポーターの底には酸素に触れると着色するインジケーター付き寒天が注入してありますので、心配な場合は底の色を見ると確認できます。

嫌気ポーターの他にも、スワブ(嫌気性菌対応のもの)を用いる事もできます。嫌気性菌対応のスワブは外装が特殊なプラスチックでできており、中は炭酸ガスが充填されています。また輸送培地は嫌気性菌も発育できるようにアミーズ培地+チャコールで構成され、形状もベンチュリー構造と言って、綿球を押し込む際に空気が入らないように設計されています。

・プラスチックの外装を開けたらすぐに採取し、蓋を閉める

以上を徹底することで、嫌気性菌の検出率が向上することが予想されます。

*弊社からお送りしておりますスワブは嫌気性菌対応となっております。ご安心下さい。

最後に…

嫌気性菌は検出が難しく、また輸送条件や常在菌による汚染のため、嫌気性菌感染症であるにも関わらずその検出がされない場合も少なくありません。検査の所要日数も多いことから、細菌検査の結果を待たずに治療を始める場合が多いかと思います。

嫌気性菌感染症が疑われ且つ状態が重篤な場合は以下を参考にした抗菌薬選択を奨励します。

 ①推定された原因微生物の種類における薬剤感受性の出やすさ

 ②病変臓器への薬剤移行性 

 ③細胞内移行性(細胞内増殖菌を疑う場合)

 ④既往歴、臓器障害等(薬物アレルギーの有無、腎・肝臓障害など)

 ⑥症例のコンプライアンスなどを考慮

獣医療の現場で日々ご奮闘されている先生方に敬意を表するとともに、弊社もお力添えできますようより一層精進して参ります。

今後もより精度の高い細菌検査・嫌気検査をお届けしますので、よろしくお願い申し上げます。

参考:臨床微生物検査ハンドブック 第5版/テルモ ケンキポーターⅡ/テクノアメニティ トランシステム/愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き​​(農林水産省)/感染管理マニュアル J.抗菌薬ガイドライン​​(阪大病院感染制御部 ​​)

協力:北里大学 医学部 助教​​ 今西 市朗先生