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2021.11.29

第五回:今更聞けない…メチシリン耐性遺伝子mecAについて徹底解説②

第四/五回に渡って『メチシリン耐性遺伝子mecA』について解説しております。
前回の記事はこちらから(https://antibacterial-tests-for-animals.com/column/620)

第四回:①ブドウ球菌とペニシリン
    ②ペニシリナーゼ産生ブドウ球菌の誕生
    ③抗菌薬メチシリンの誕生
    ④メチシリン耐性/mecA保有ブドウ球菌の出現

第五回:⑤メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とペニシリン系抗菌薬
    ⑥メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とβラクタム系抗菌薬
    ⑦メチシリン耐性ブドウ球菌を減らすために

今回は⑤⑥⑦について扱います。長いですが、是非一緒に学んで行きましょう♪

⑤メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とペニシリン系抗菌薬

少しおさらいして、④のまとめは以下の通りでした。
[まとめ④:抗菌薬メチシリンに対抗するため、ブドウ球菌は新たなペニシリン結合タンパク:PBP2aまたはPBP2’を産生するようになった/これをコードする遺伝子をmecA、これを産生するブドウ球菌をメチシリン耐性ブドウ球菌という]

メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌だとどんな問題があるのでしょうか。

メチシリン耐性ブドウ球菌は新たなタンパクの糊(ペニシリン結合タンパク:PBP2aまたはPBP2’)を産生しますので、細胞壁の素(ペプチドグリカン)とペニシリン系抗菌薬を識別できます。つまり、ペニシリン系抗菌薬には騙されない(効かない)というわけです。

[まとめ⑤:メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌だとペニシリン系抗菌薬が効かない]

⑥メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌とβラクタム系抗菌薬

さらにやっかいなお話をする前に、抗菌薬の関係性についておさらいします。

【β-ラクタム系抗菌薬…ペニシリン系, セフェム系, カルバペネム系, モノバクタム系, ペネム系, など】

上記のように、ペニシリン系抗菌薬は大きな分類でいうとβ-ラクタム系抗菌薬に含まれます。β-ラクタム系抗菌薬とは、β-ラクタム環という構造を有する抗菌薬のことです。

タンパクの糊(ペニシリン結合タンパク:PBP)が細胞壁の素(ペプチドグリカン)とペニシリンを誤認識してしまうのは、どちらもこのβ-ラクタム環という構造を持つためです。

勘の良い方はもう気づいてしまったのではないでしょうか…メチシリン耐性(mecA保有)ブドウ球菌は新たなタンパクの糊(ペニシリン結合タンパク:PBP2aまたはPBP2’)を産生するため、細胞壁の素(ペプチドグリカン)の認識精度が高いのです。

つまり、メチシリン耐性ブドウ球菌はβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系, セフェム系, カルバペネム系, モノバクタム系, ペネム系, など)全てに耐性です。治療に使える抗菌薬の選択肢はかなり限られてしまいます。
(そうそう、LINE配信の答えはどれも❌が正解でした!!「そんなのありかよ!?」と思った貴方、ごめんなさい。恨むなら耐性菌を恨んで、一緒に撲滅していきましょう♪)

やっかいなメチシリン耐性ブドウ球菌の蔓延を防ぐ・減らすためには、その動向を知ることが重要です。そのため、弊社の検査ではmecAを検出するためのPCRをルーチンで行っています。

⑦メチシリン耐性ブドウ球菌を減らすために

メチシリン耐性ブドウ球菌が世界中に広まったら大変なことになりますが、各国の愛玩動物医療現場においては年を追うごとに分離率が上昇しているのが現状です。もちろん日本においても同様ですが、まだ対策を打つことができると我々は信じてやみません!!

と言いますのも、手前味噌ではありますが、我々は近年、耐性を示す抗菌薬の使用を一定期間制限する取組が、動物病院におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の分離率を減少させうる可能性を報告しております(keita iyori, et al., 2021, Veterinary dermatology)。抗菌薬の適正使用及び使用制限が、メチシリン耐性ブドウ球菌の蔓延を防ぐ1stステップであり、大きな力を持っています。

具体的には以下のような対策が考えられます。

・抗菌薬を使用しない場合に生命予後が著しく悪化する症例でなければ、抗菌薬を使用しないアプローチを行う

・抗菌薬を使用する場合は細菌培養検査及び感受性検査を実施し、その結果に則した適切な抗菌薬を処方する

・院内感染を防ぐために徹底した手洗い&消毒を実行する

・院内スタッフ、ペットオーナーに耐性菌に関する啓蒙活動を行う

動物たち、飼い主さん、何より先生方や病院のスタッフさんの健康を守るために、ご協力お願い致します。

二回に渡って記事をご覧いただきありがとうございました!!


監修:獣医師・獣医学博士​​ 伊從慶太