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2024.8.18

第六回 : 消えた細菌の謎!?外耳検査の未検出について

はじめに

グラム染色等で菌が見えているのに、検査結果で菌が検出されないことはありませんか?

特に外耳炎の検査では、未検出の結果が多く見受けられます。

この記事では、外耳炎の治療法を詳しく解説し、皆さんが対策方法を学べるようにします。

目次


1.外耳炎からよく検出される菌

2.そもそも外耳炎の治し方って?

3.菌未検出の原因は?

4.早めにセカンドオピニオン(おまけ)

5.まとめ


1.外耳炎からよく検出される菌

まず基礎知識として、外耳炎からよく検出される細菌を紹介します。

外耳炎から検出される細菌は、次の2つのグループに分けられます。

①元々常在菌として耳内にある程度存在していた細菌

ブドウ球菌、コリネバクテリウムなどのグラム陽性菌。

②耳内に少数存在していたが常在菌によって増殖を抑えられていた細菌

大腸菌、プロテウス菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌。

専門医の
1Point

細菌ではないですが、酵母様真菌でマラセチア等が検出される場合もあります。

2.そもそも外耳炎の治し方って?

犬や猫の外耳炎発症には、以下の4つの因子が複雑に関連しています。

(下記の考え方をPSPP分類と言います。)

1. Primary cause (主因)

アレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎や食物アレルギー)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症)、寄生虫感染(ミミダニ症)

2.Secondary cause(副因)

細菌、酵母様真菌(マラセチア)の増殖、不適切な治療

3.Perpetuating factor(増悪因)

耳垢過多、耳道内分泌の亢進、耳道の狭窄

4.Predisposing factor(素因)

耳道が狭い(短頭種)、耳毛過多、高温多湿な環境

細菌の増殖はあくまでも副因であり、細菌感染単独では外耳炎を起こすことがないという事がポイントです。そのため、バックグラウンドにある主因を同定することが重要です。したがって、細菌が検出されたからといって抗菌薬投与のみで外耳炎の治療にあたるのは得策ではなく、主因の同定・管理を行いながら、洗浄や適切な抗菌薬療法で細菌の増殖を抑えることが重要となります。

3.菌未検出の原因は?

未検出の理由として最も高いのは、採取した細菌がすでに死んでいた場合です。

この場合、顕微鏡で菌体が確認されるにも関わらず、結果は未検出となります。

細菌が死んでしまう原因と対策は以下の通りです。

1. 抗菌成分を含む耳道洗浄液や抗菌薬の使用後に採取した。

洗浄や抗菌薬投与後に症状が改善しない場合は治療休止期間を設定し(1-2週間)、再度採取し細菌検査に出す。

2. 感染部が採取部より内側(中耳)に存在する。

画像検査等にて中耳病変を確認する。中耳病変が疑われる場合はカテーテルや耳道内視鏡を用いて中耳内から検体を採取する。中耳への直接的なアプローチが難しい場合は、生理食塩水を充満・回収し、再度鏡検の上、菌体が確認された場合は回収液を検査に出す。

専門医の
1Point

可能性は低いですが、偏性嫌気性菌が原因の場合があります。

その場合、好気性検査が未検出となるため

嫌気検査を申し込むことを検討しましょう

4.早めにセカンドオピニオン(おまけ)

耳道の構造変化(特に耳道狭窄や耳垢塞栓)が著しい症例では、一般的な治療では十分な改善が見られないこともあります。このような症例は、耳の構造変化が不可逆な状態となる前に、専門的な施設への紹介受診やセカンドオピニオンを検討してください。1ヶ月内科治療しても良好な治療成績が得られない場合を目安にしてみてください。

専門医の
1Point

先生方からセカンドオピニオンをお勧めされると、飼い主さんもより安心できるかと思います。ぜひご検討ください。

5.まとめ

外耳炎の治療は複雑ですが、適切な診断と治療を行うことで、愛犬・愛猫の耳の健康を守ることができます。
この記事が皆様の診療に役立つことを願っています。

参考文献:犬と猫の日常診療のための抗菌薬治療ガイドブック(原田和記)
監修:獣医師・獣医学博士​​ 伊從慶太