Column
細菌検査のいろはでは、検出菌に関する詳しい説明もしていきたいと思います♪
今回は誰もが知っている細菌、『大腸菌』について!
(1) 大腸菌ってどんな菌?
(2) 大腸菌による病気と治療
(3) 大腸菌の薬剤耐性について
の3本立てでお届けいたします💡
(1) 大腸菌ってどんな菌?
大腸菌は1885年にエシェリヒ(Escherich)さんによって、大腸(coli)から発見されました(だから学名はEscherichia coli!!)。
グラム陰性の桿菌で、ヒトと動物の腸管内に常在しており基本的には病原性はありません。
実験に使われるモデル生物の代表で、これまで遺伝学(DNAやタンパク質など)研究の発展に大きく貢献し、今後も生物学の研究に欠かせない生物です。
(2) 大腸菌による病気と治療
※動物はヒトほど研究が進んでいませんが、特に犬の腸内環境はヒトと類似していることが分かっています(猫も大きくは違わない)。以下はヒト医学的な大腸菌の見解ですが、動物においても同様と考えて差し支えないでしょう。
ヒトにおける、大腸菌による病気には以下の2パターンがあります。
①病原性大腸菌が腸管に感染するパターン
②常在の大腸菌が腸管以外の場所に感染するパターン
①のパターンでは、病原性大腸菌に汚染された飲食物を摂取することで感染し、腸管内で炎症が起こります。このパターンで有名なのは腸管出血性大腸菌O157です。この他にも腸管組織侵入性大腸菌や腸管凝集付着性大腸菌など種類があって、検査では糞便を検査(⚠弊社では実施しておりません)し、どの大腸菌に感染しているのか調べます。
大腸菌にはO抗原(菌体:大腸菌のからだ), H抗原(鞭毛:大腸菌のしっぽ)等の抗原があり、これを調べることでO157H7やO111H-など血清型を知ることができます。また同時に病原遺伝子(毒素や腸管付着因子をコードする遺伝子)を調べ、大腸菌の分類を行うことができます。
病原性大腸菌の治療は基本的には対症療法で、抗菌薬の使用は毒素の産生を誘発するため推奨されません。ただし、感染早期であれば抗菌薬治療が有効で重症化を防ぐことができると考えられています。
②のパターンは、腸管内に常在する大腸菌が何らかの理由で腸管以外に感染することで起こります。尿路, 胆道, 腹膜, 血液, 髄膜など様々な部位に感染するため、大腸菌は臨床材料からの分離率の最も高い菌の一つです(⚠弊社では血液・髄液の検査は実施しておりません)。
治療には以下の抗菌薬を用います(上から順に、耐性菌を生みにくいオススメ抗菌薬です!)
・アミノペニシリン系薬(アンピシリン:ABPC, アモキシシリン:AMPC)
・βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(アモキシシリンクラブラン酸:ACV, アンピシリンスルバクタム:S/Aなど)
・セフェム系薬(セファゾリン:CEZ, セフォベシン:CFVなど)
命に関わる場合はカルバペネム系やアミノグリコシド系を用います。※最近のヒト由来大腸菌はキノロン系薬に耐性傾向がある場合が多いことが分かっており、加えてキノロン耐性大腸菌はヒト-動物間で伝播しあうことが分かっています。
(3) 大腸菌の薬剤耐性について
大腸菌は初期のペニシリン系抗菌薬に多いベンジルペニシリンに自然耐性(抗菌スペクトルに入らない)です。大腸菌にも有効な抗菌薬としてアミノペニシリン系抗菌薬が開発されました。ですから、薬剤耐性のない大腸菌はアミノペニシリン系抗菌薬(ABPC, AMPC)が第一選択薬です。
すると、大腸菌はアミノペニシリン系抗菌薬に対抗するため、抗菌薬を分解するβラクタマーゼを産生するようになりました。通常、大腸菌が産生するβラクタマーゼは大した分解能がないため、以下の抗菌薬が有効です。
・βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系
・セフェム系
・カルバペネム系 etc
しかし近年、分解能を増したβラクタマーゼを産生する大腸菌が出現し始めました。①セフェム系抗菌薬を分解して耐性を示すESBL(質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生大腸菌と、②カルバペネム系抗菌薬を分解して耐性を示すCPE(カルバペネマーゼ)産生大腸菌です。これらの耐性菌はヒトだけでなく、特に動物において増加傾向を示しています。
βラクタマーゼを耐性が強い順に並べるとCPE>ESBL>通常のβラクタマーゼとなります。
①ESBL産生大腸菌…セフェム系とこれより弱いβラクタム系抗菌薬に耐性
②CPE産生大腸菌…カルバペネム系とこれより弱いβラクタム系抗菌薬に耐性
これらの耐性菌は抗菌薬の大半を占めるβラクタム系抗菌薬の選択肢が狭まるため、治療が難しくなります。したがって、耐性菌を『作らない』『広げない』取り組みが重要です。
毎度毎度になりますが、以下の取り組みにご協力ください。
・抗菌薬を使用しない場合に生命予後が著しく悪化する症例でなければ、抗菌薬を使用しないアプローチを行う
・抗菌薬を使用する場合は細菌培養検査及び感受性検査を実施し、その結果に則した適切な抗菌薬を処方する
・院内感染を防ぐために徹底した手洗い&消毒を実行する
・院内スタッフ、ペットオーナーに耐性菌に関する啓蒙活動を行う
未来の動物まで救うために、一緒に頑張って行きましょう🍀