一度発生した薬剤耐性菌に対しては打つ手がないのでしょうか?実は、抗菌薬を適正に使用することで薬剤耐性菌の発生を抑制することができます。国内の研究では抗菌薬の年単位の使用制限(特にフルオロキノロン系と第3世代セファロスポリン)を行なった結果、犬におけるMRSPを含むメチシリン耐性ブドウ球菌の分離率が低下したことが示されています(Kurita G, et al. J Infect Chemother, 2019)。
では、抗菌薬の適正使用を行うためにはどのような方策を取れば良いのでしょうか? オススメはアンチバイオグラムの作成です。
アンチバイオグラムは各施設、各臓器、各細菌種で、一定期間実施した薬剤感受性試験のデータを集積したものです。たとえば、東京のA動物病院の皮膚におけるS. pseudintermediusの1年間の感受性率のまとめを作る、といったイメージです。1年に1回、30株以上のデータを用いて作成することが理想ですが、株数が少なければ2年以上のデータを用いることもできます。
下表はアンチバイオグラムに則った抗菌薬の使用制限(2018年から2019年)を行なった前後の皮膚のS. pseudintermediusの感受性率の推移です。いずれの抗菌薬も感受性率が上昇していることがわかるかと思います。アンチバイオグラムを作成すると、細菌感染症の経験的治療(初期治療)に効果的な抗菌薬の選択できるほか、抗菌薬の適正使用が可能となります。
しかし、アンチバイオグラムの作成は些か面倒ですよね。”どうぶつの細菌検査” では一定数の依頼があった場合、アンチバイオグラムを無料で作成していますので、貴院の診察にぜひお役立ていただけましたら幸いです。
2015 年の経済協力開発機構(OECD)の報告では,今後2050 年までに何も対策をとらない場合,年間1,000 万人ものヒトが薬剤耐性菌により死亡し、この死亡者数は,がんの死亡者数を上回ると予想されています。獣医学領域から耐性菌を増やさないためにも、一人一人の臨床獣医師が抗菌薬の適正使用に励むことが重要です。未来の動物を救うために、今私たちができることを、膿皮症の側面からも取り組んでいきましょう!
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