突然ですが、皆さんはキノロン系抗菌薬についてどのようなイメージをお持ちですか?
抗菌スペクトルが広い?殺菌性に優れている?細胞内移行性が高い?
まず今回の記事でキノロンについて覚えて欲しいことがあります。
それは『キノロンは耐性化しやすい』ということです。
「そんなの知ってる!」「常識だよ!」というような声が聞こえてきそうですね。そのような方にもご満足いただけるよう、原理や使用法まで詳しく解説していきます。
第六回『キノロン系薬との上手な付き合い方』。目次は以下の通りです。
①キノロン系薬とは
②キノロン系薬の作用機序
③キノロン耐性化のメカニズム
④キノロン耐性化を防ぐHow to
それでは一つずつ学んで行きましょう♪
①キノロン系薬とは
キノロン系薬とは、キノロン骨格を有する抗菌薬のことです。
最初のキノロン系薬であるナリジクス酸(NA)は、当時は数の少なかったグラム陰性菌に有効な薬剤として開発されました。
しかし、NAは(1)緑膿菌には効かない(2)代謝されやすい(3)血中濃度・組織移行性が低いという欠点がありました。
この欠点はピペミド酸(PPA)を開発する際に、7位にピペラジニル基を付加することで、(1)緑膿菌有効性の獲得(2)代謝代謝安定性の獲得(3)血中濃度・組織移行性の改良をかなえました。
更に開発は進みキノリン環の6位にフルオロ基を付加すると、グラム陽性菌・グラム陰性菌の抗菌活性と体内動態が飛躍的に改善しました。
あまりの違いにフルオロ基のないキノロンを『オールドキノロン』、フルオロ基のあるキノロンを『ニューキノロンあるいはフルオロキノロン』と呼び、現在ではニューキノロンが主流となりました。
②キノロン系薬の作用機序
DNA超らせんという言葉をご存知でしょうか?
DNAは二重らせん構造をとりますが、転写や複製の際にポリメラーゼが入り込む隙間を作ったり、DNAをコンパクトに収納するために、更にねじれが導入されています。
超らせんに関わる酵素(トポイソメラーゼ)は細菌とヒトで種類が異なります。キノロンは細菌のトポイソメラーゼを標的にしています。
キノロンが標的にしているのはいずれも細菌の複製時に働くDNAジャイレース(トポイソメラーゼの一種/超らせんを解く)とDNAトポイソメラーゼIV(細胞分裂時に複製されたDNAを分配するための超らせんを解く)で、これらの構造は非常に似ています。
トポイソメラーゼはDNAを切断・再結合することで超らせんを解消しますが、この際DNA-トポイソメラーゼ-DNAの状態になります(トポイソメラーゼがDNAを両手に持っているイメージ)。キノロンはこの隙間に挟まり安定な複合体を形成することで、トポイソメラーゼの働きを阻害します。
最近の研究によると、キノロンはグラム陰性菌ではジャイレース、グラム陽性菌ではトポイソメラーゼIVの働きを阻害することによって抗菌活性を得ているようです。
③キノロン耐性化のメカニズム
キノロンとDNAとジャイレース/トポイソメラーゼIVが複合体を形成する結果、殺菌作用が生じるということは、耐性を獲得するためにはこの複合体が形成されなければ良いという訳です。
ジャイレース/トポイソメラーゼIVがキノロンと複合体形成してしまうのは、ほんの一部分がぴったりハマるためなので、ここの構造がほんの少しでも変化すると複合体は形成されなくなります。
この『ほんの少しの変化』はなんと一塩基置換で達成できます。
ブドウ球菌がメチシリンに対抗するために新たなペニシリン結合タンパク質を産生したのと比べると、スープと麺作りからラーメンを作る(メチシリン耐性)のと、お湯を注いでカップラーメンの出来上がり(キノロン耐性)ぐらいの難易度の差があります!耐性化しやすいわけですよね…。
ちなみにこの耐性は細菌が根性で獲得するものでうつるものではないのですが、複合体形成を防ぐ小さい物質(キノロンより先にジャイレース/トポイソメラーゼIVにくっつき、DNA切断・再結合能を阻害しない)を産生するタイプの耐性もあり、こちらはプラスミドを介して伝播します。
他にも、キノロンの取り込みを弱める外膜の変異、キノロンの排出を強める排出ポンプの変異もあり、この場合キノロンのみではなく、複数の抗菌薬に対して耐性となるので非常に厄介です。
④キノロン耐性化を防ぐHow to
気を抜くとすぐに耐性化するキノロンとの付き合い方、これはもう一択しかありません。
そうです『キノロンは(極力)使用しない』が正解です。
キノロンは耐性化しやすい一方でとても優秀な抗菌薬です。緑膿菌など自然耐性の細菌に対しても有効な数少ない抗菌薬、温存するに越したことはありません。
具体的な対策方法はメチシリン耐性ブドウ球菌と同じです。
・抗菌薬を使用しない場合に生命予後が著しく悪化する症例でなければ、抗菌薬を使用しないアプローチを行う
・抗菌薬を使用する場合は細菌培養検査及び感受性検査を実施し、その結果に則した適切な抗菌薬を処方する(キノロンが感受性であってもすぐに使わず温存を検討)
・院内感染を防ぐために徹底した手洗い&消毒を実行する
・院内スタッフ、ペットオーナーに耐性菌に関する啓蒙活動を行う
未来の動物たちや飼い主さんを守るため、ご協力お願い致します!!
④’おまけ
キノロン系薬はキノロン骨格がDNAとトポイソメラーゼと複合体を形成する機構が共通しているため、一種類のキノロンが耐性なら他のキノロンも耐性な可能性が高いです。検査セットに含まれないキノロン系薬の感受性が知りたい場合は、既に含まれるキノロン系薬の感受性から予測することができます。
まずは使わない、もし使う場合は上手に計画的に、キノロン系薬と付き合って行きましょう♪
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