昨年の夏に弊細菌検査は大型アップデートを行いました。その中の一つに、眼科検査の追加があります。
いきなり始まった新検査、実は使い方がよく分からない…そんなことはありませんか?ということで、今回は『眼科検査』の使い方について解説していきたいと思います
①眼からよく検出される菌
②正しい採取・輸送方法
③細菌性眼科疾患の治し方
上記について一つずつ説明していきます!
①眼からよく検出される菌
(クイズの答え:②ブドウ球菌 犬猫の眼から最もよく検出されるのはブドウ球菌です♪)
犬猫の眼には常在菌としてブドウ球菌が存在しています(検出率…犬:57-70%、猫:27%)。常在菌は必ずしも宿主(犬猫)にとって悪さをするものではなく、単に共生しているだけの可能性もあります。ブドウ球菌が検出された際には細胞診を行い、常在菌か感染菌かを区別し、治療を行って下さい。
犬猫の眼からはブドウ球菌以外に、以下のような細菌が検出されます。
犬…連鎖球菌、コリネバクテリウム、ナイセリア、緑膿菌、モラクセラ、バシラス、真菌、など
猫…コリネバクテリウム、バシラス、連鎖球菌、マイコプラズマ、真菌、など
上記の細菌はグラム染色で比較的検討がつきやすい菌種ですので、是非確認して下さい♪
(※弊検査ではナイセリア及びモラクセラ、マイコプラズマの検出は対象外となっております)
②正しい採取・輸送方法
眼の検体を採取する際のポイントは、抗菌成分入りの点眼薬を使用しないことです。
ほとんどの点眼薬には(抗生剤カテゴリーでなくとも!)抗菌成分が含まれます。もし検体採取のために液体の点眼が必要な場合は、生理食塩水など余分な成分が入っていない液体を用いて下さい。
輸送容器には培地成分のあるスワブを奨励しています。マイクロブラシをそのままお送り頂いても高頻度で菌未検出となってしまいます。したがって直接スワブで採取するか、マイクロブラシで採取後にスワブの綿球でマイクロブラシ上の検体を拭ってお送り下さい。
③細菌性眼科疾患の治し方
眼科疾患には感染性疾患と非感染性疾患があります。代表例を以下に記します。
感染性疾患…結膜炎、角膜炎、ブドウ膜炎、など
非感染性疾患…緑内障など
細菌感染の確認にはブラシサイトロジー(マイクロブラシを用いた細胞診)が有用です。
感染所見(細菌数や変性好中球の増加、細菌貪食像)がみられた場合、グラム染色を行い、その染色性や形態により原因菌を予測します。
抗菌薬選びのポイントとしては、デ・エスカレーションが重要になってきます。
眼はデリケートな器官であり、疾患が進行すると失明などのリスクも生じます。このため①まずは抗菌スペクトルの広い抗菌薬を使い、②検査結果(培養同定・感受性試験)を参照して、より狭い抗菌スペクトルの抗菌薬に移行していきます。(ブドウ球菌が疑われる場合はセフェム系、緑膿菌が疑われる場合はトブラマイシンを、それぞれ新世代のフルオロキノロンと組み合わせて投与されることが多いようです)
抗菌薬は点眼薬と服用抗菌薬を組み合わせて用います。また感染症を生じた基礎疾患(ドライアイや神経麻痺などの眼疾患や糖尿病などの全身疾患)を治療することも重要です。
細胞診で感染所見がない場合、抗菌薬の乱用は角膜障害や耐性菌出現を生じるため、クロラムフェニコールやゲンタマイシン、旧世代のフルオロキノロンなどを一日3-4回点眼する予防治療にとどめます。
③’ おまけ
細胞診以外にも、以下のような眼科検査によって疾患の見極めが可能です。
・瞳孔…拡大なら緑内障、縮小ならブドウ膜炎
・視力…重度の視力障害または盲目なら緑内障、正常なら結膜炎またはブドウ膜炎
・眩惑反射…なしなら緑内障、ありならブドウ膜炎
・スリットランプ検査(角膜浮腫)…ありなら緑内障, ブドウ膜炎、なしなら結膜炎
・スリットランプ検査(虹彩)…前眼房が深いなら緑内障、前眼房が浅い・充血・腫大ありならブドウ膜炎
・フルオレセイン染色…染色されたら潰瘍性角膜炎
・シルマー涙液…涙液低下なら乾性結膜炎
・眼圧…増加なら緑内障、低下ならブドウ膜
参考:PEPPY vet 獣医眼科学入門(https://www.vetswan.com/tool/column/medical/31), 犬と猫の日常診断のための抗菌薬治療ガイドブック, など
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