前回から3回に渡って、特に注意が必要な薬剤耐性菌について説明しています(前回を未読の方はぜひ、第14回の記事を読んでくださいね♪)。
https://antibacterial-tests-for-animals.com/column/707
世界保険機構(WHO)が2017に公表した「新規抗菌薬が緊急に必要な薬剤耐性菌」を参考に、今回は危険度「高」の耐性菌を解説していきます。
危険度「高」の細菌種について。該当する菌種は以下の通りです。
①バンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus faecium)
②メチシリン耐性, バンコマイシ耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
③クラリスロマイシン耐性ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)
④フルオロキノロン耐性カンピロバクター属菌(Campylobacter spp.)
⑤フルオロキノロン耐性サルモネラ属菌(Salmonellae)
⑥セファロスポリン耐性、フルオロキノロン耐性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)
ちょっと多いですが、頑張って6種類勉強していきましょう!
①バンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus faecium)
「バンコマイシン」って薬剤耐性の分野ではよく聞きますよね。さぞかしよく効く抗菌薬なんだろうと思いきや、抗菌スペクトルはグラム陽性菌がメインで陰性菌には効果がありません。ではなぜ注意が必要なのでしょうか。
答えとしては、メチシリン耐性ブドウ球菌に効果がある数少ない薬剤の一つだから、です(※メチシリン耐性ブドウ球菌については第四, 五回の記事でおさらいできます💡)。β-ラクタム系とは異なる系統であるグリコペプチド系の抗菌薬、選択肢として残しておきたいところですが、近年バンコマイシン耐性菌が出現してきています。腸球菌からブドウ球菌に耐性遺伝子がうつってしまうと、あっという間に耐性化してしまいますので、要注意という訳ですね。
ちなみにEnterococcusはフェシウム(faecium)よりもフェカーリス(faecalis)が多いですが、フェシウム(faecium)の方が病気を起こしやすい(※ヒトの場合)ため、WHOはフェシウム(faecium)を名指しで警戒しています。獣医療では、どちらにも注意するのがベターでしょう。
②メチシリン耐性, バンコマイシン耐性ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
メチシリン耐性は抗菌薬の大半を占めるβラクタム系抗菌薬が効かない恐ろしい耐性です(※詳細は第四, 五回の記事を参照)。またバンコマイシンも上記の腸球菌で述べた通り、温存したい抗菌薬の一つです。このため、メチシリン耐性, バンコマイシン耐性ブドウ球菌に注意が必要という訳です。
黄色ブドウ球菌はヒトに病原性を示すほか、伴侶動物でも病気を引き起こすリスクがあるので注意が必要です。特にイヌにおいて、最も注意が必要なブドウ球菌としてはS. pseudintermediusが挙げられ、本菌の耐性には十分に注意しましょう。
③クラリスロマイシン耐性ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)
ヘリコバクターピロリ、いわゆるピロリ菌はヒトでは胃がんを引き起こす菌として有名です。本菌はマクロライド系であるクラリスロマイシンといくつかの薬を併用して治療していきますが、近年クラリスロマイシン耐性が増加しています。ピロリ菌を除去できないと胃がんのリスク因子が高まる可能性があるので問題です。
伴侶動物にもピロリ菌が感染している場合があります。動物に対しては現在のところ明らかな胃がんを引き起こす証拠はないようですが、ネコにおいては吐き気の原因として本菌が関与していることもあるようです。
④フルオロキノロン耐性カンピロバクター属菌(Campylobacter spp.)
カンピロバクターは、ヒトの食中毒の原因菌であり、時に致死的なギランバレー症候群を誘発する危険な細菌です。本菌の治療は一般的に抗菌薬を用いませんが、重症例で抗菌薬を用いる場合の選択肢の一つとしてフルオロキノロンがあります(※キノロン耐性に関する記事は第七回を参照)。フルオロキノロン耐性カンピロバクターは全体の3割程度まで拡大しており、本菌の病原性も考慮すると深刻な耐性化が進んでいるといえます。
本菌は動物の常在菌でもあります。子犬・子猫で嘔吐や下痢の症状を示す場合がありますが、基本的には無症状です。イヌ・ネコの1%が保菌するというデータもありますので、フルオロキノロンの乱用には注意しましょう。
⑤フルオロキノロン耐性サルモネラ属菌(Salmonellae)
サルモネラはヒト及び動物に感染して急性胃腸炎を引き起こし、時に重症化して致死的な経過を辿る可能性のある注意が必要な細菌種です。ヒトにおいて臨床的に有効性が認められているのはアンピシリン, ホスホマイシン, ニューキノロンの三薬剤となります。本菌もカンピロバクターと同様にフルオロキノロン耐性が進んでおり、注意が必要です。
⑥セファロスポリン耐性、フルオロキノロン耐性淋菌(Neisseria gonorrhoeae)
淋菌はヒトに特有の病原体として知られています。性交等で淋菌に感染すると、咽頭や尿道で炎症が起こる他、不妊の原因にもなる細菌です。本菌の治療にはいくつかの抗菌薬の候補がありますが、中でも抗菌スペクトルの広いセファロスポリン, フルオロキノロンへの耐性化が進んでおり、問題となっています。
イヌネコに感染する病原体ではないとされていますが、ウサギやモルモット等の小動物は実験的に感染することがわかっています。
ここまで、特に危険な薬剤耐性菌② 〜危険度「高」〜をお届けしました!次回は〜危険度「鬼」〜をお届けします。お楽しみに♪
参考文献
・染方史郎, 感じる細菌学×抗菌薬
・AnswersNews, WHOが初公表した「新規抗菌薬が緊急に必要な薬剤耐性菌」リスト―開発支援 世界で動き
・都筑動物病院, 犬・猫たちのピロリ菌 他
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