検査結果でよく見る『Pasteurella multocida』,実はヒトにとってかなり危険な細菌だとご存じですか?
ペットさんの体調と同時に飼い主さんや病院スタッフの安全も確保したい,そんな想いで記事を書きました!是非パスツレラについて一緒に学んで行きましょう!
目次は以下の通りです💡
(1) パスツレラってどんな菌?
(2) パスツレラによる病気と治療
(3)パスツレラの薬剤耐性について
(1) パスツレラってどんな菌?
パスツレラは1879年にペロンチトさん, 1890年にパスツール(Pasteur)さんによって発見されました.当時は家禽コレラ(本菌が鳥に感染して引き起こされる)が流行しており,『沢山殺す=multocida』菌として命名されました.
パスツレラは小型のグラム陰性短桿菌(球菌にみえることも)です.グラム陰性短桿菌は本菌とモラクセラ, ナイセリアぐらいしかありませんので,グラム染色で陰性短桿菌が確認されたら本菌も疑ってみてください.
パスツレラは動物(鳥, 牛, 豚, 犬, 猫, ウサギ, etc..)の常在菌で,犬の75%, 猫の100%が保菌すると言われています.犬猫にとって基本的には無害ですが,まれに日和見的に感染します.
一方,ヒトにとっては危険な菌です!!国立感染症研究所が規定するBSL分類ではBSL2~3に該当し,炭疽菌やマラリアに匹敵する危険性とされています.犬猫に咬まれることでしばしば感染し,蜂巣炎や敗血症を引き起こします.時に致命的ですのでくれぐれもご注意ください⚠️
(2) パスツレラによる病気と治療
パスツレラは上述した通り,犬猫の常在菌です(主に口腔内に存在).犬猫には基本的に無害で感染による症状も見られないことが多いですが,咬傷から蜂巣炎を引き起こす他,まれに肺炎を引き起こします.
治療方針ですが,犬猫にとっては常在菌なのでまずは抗菌薬による治療が必要かどうか判断してください.細胞診を行い本菌による炎症を確認した場合,以下の抗菌薬を用います(※ヒトに準じて治療を行うとされるため,ヒトの治療法を外挿しています).
・ペニシリンG
・アンピシリン
・アモキシシリンクラブラン酸
・ドキシサイクリン
・第三世代セフェム系薬
・クロラムフェニコール
(3) パスツレラの薬剤耐性について
パスツレラはグラム陰性菌なのですが抗菌薬に対する感受性が高く,通常グラム陰性菌には効果がない抗菌薬にも効果があります.
しかし,初めは有効であったマクロライド(エリスロマイシン), リンコサミド(クリンダマイシン)に耐性が出たように,ペニシリンに対しても耐性が出はじめています.現在確認されているパスツレラのペニシリン耐性は,βラクタマーゼを産生することが原因ですので,βラクタマーゼ阻害薬配合の抗菌薬(アモキシシリンクラブラン酸)を使用することができます.これ以上耐性化が進まないようにしたいですね.
毎度毎度になりますが、以下の取り組みにご協力ください。
・抗菌薬を使用しない場合に生命予後が著しく悪化する症例でなければ、抗菌薬を使用しないアプローチを行う
・抗菌薬を使用する場合は細菌培養検査及び感受性検査を実施し、その結果に則した適切な抗菌薬を処方する
・院内感染を防ぐために徹底した手洗い&消毒を実行する
・院内スタッフ、ペットオーナーに耐性菌に関する啓蒙活動を行う
未来の動物まで救うために、一緒に頑張って行きましょう🍀
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