今回の議題はセフェム系抗菌薬!皆さん一度は処方したことがあるのではないでしょうか.
セフェムとセファロスポリンはどう違う?世代・種類が沢山あるが使い分けは?
なんとなく曖昧になっている方は一緒に学んで行きましょう!
目次は以下の通りです💡
(1) セフェム系抗菌薬とは?
(2) 世代による違いについて
(3)セフェム系抗菌薬耐性菌について
(1) セフェム系抗菌薬とは?
セフェム系抗菌薬はβラクタム環をもつβラクタム系抗菌薬の一種で,①セファロスポリン②セファマイシン③オキサセフェムの3種類があります.セフェム系に共通する特徴はβラクタム環の隣に六員環をもつこととグラム陰性菌へ効果があることです.
①セファロスポリン
セフェム系抗菌薬の中で最も歴史が古いのがセファロスポリン系です.ペニシリンの発見から20年後の1948年,イタリアのサルデーニャ島の下水道にいセファロスポリウム(Cephalosporium)というカビからセファロスポリンCという物質が発見されたのが始まりです(発見者はイタリア人のジュゼッペ・ブロツさん).
セファロスポリン系抗菌薬はβラクタム環の隣に六員環をもち,第二世代以降はほぼほぼオキシイミノ基を持っています.
②セファマイシン
セファマイシン系抗菌薬は1971年,アメリカとドイツの合同チームが,放線菌(Streptomyces)からセファマイシンCという物質を発見したのが始まりです.βラクタム環の隣に六員環を持ち,オキシイミノ基を持たない代わりに,7位にメトキシ基を持ちます.嫌気性菌にも効果があるのはこのグループの特徴です.(※最近,ESBL産生菌にも有効な場合があることがわかってきています!)
③オキサセフェム
オキサセフェム系抗菌薬は1981年に日本のシオノギ製薬が開発に成功しました.βラクタム環の隣に六員環を持ち,オキシイミノ基を持たない代わりに7位にメトキシ基を持ちます.セファマイシンと似ていますが,違いは六員環のS→Oに置換している点です.これによりβラクタマーゼに対する安定性が高く,ESBL産生菌にも有効なグループとされています.獣医領域ではあまり見かけない薬かもしれません.
(2) 世代による違いについて
実は世代があるのはセファロスポリン系だけで,セファマイシンとオキサセフェムに世代はありません.しかし一時的にセファマイシン=第二世代セフェム,オキサセフェム=第三(二)世代セフェムとされた時期がありました.これは日本だけでの混乱で,海外ではセファロスポリン以外を世代分けすることはありません.
世代による違いについて,簡単にいうと第一世代セファロスポリンはグラム陽性菌がメインターゲットですが,世代が上がるごとにグラム陰性菌にメインターゲットが代わります.以下に犬猫用セファロスポリン系抗菌薬の世代ごとの代表をご紹介します.
第一世代:セファレキシン
第一世代でグラム陽性菌に対する効果が強いため,メチシリン感受性ブドウ球菌の治療に主に錠剤として用いられます.犬の膿皮症は多くの場合ブドウ球菌感染であることから、古くから犬膿皮症の治療に汎用されています。
第三世代:セフォベシンナトリウム
元々は犬及び猫の細菌性皮膚感染症の治療を目的とした注射剤として承認されました.しかし第三世代ということでグラム陰性菌に対する効果も大きく,細菌性膀胱炎等の皮膚以外の疾患にも処方されます(※耐性菌に注意!詳しくは(3)をお読みください!).
第三世代:セフポドキシムプロキセチル
犬の細菌性皮膚感染症の治療を目的とした経口剤です.こちらも第三世代なのでグラム陰性菌にも作用するため,皮膚以外にも処方されます(※耐性菌に注意!詳しくは(3)をお読みください!).
(3) セフェム系抗菌薬耐性菌について
セフェム系抗菌薬耐性菌の有名どころは大きく分けて以下の2つです.
・メチシリン耐性ブドウ球菌
・ESBL産生腸内細菌科細菌
メチシリン耐性ブドウ球菌はβラクタム系抗菌薬全般に耐性を示します.したがってセフェム系抗菌薬にも耐性を示します.(※詳細は以下の記事をチェック!)
特に日本はセフェム系抗菌薬の多用によりメチシリン耐性ブドウ球菌を広めてしまった歴史があります。ブドウ球菌の治療にセフェム系抗菌薬を処方する際には、より狭域の代替薬がないか?をご検討ください.
ESBL産生腸内細菌科細菌は過去記事(※以下の記事をチェック!)にも記していますが,基質特異性拡張型βラクタマーゼを産生する大腸菌の仲間(KlebsiellaやProteus, Enterobacter等)です.
ESBL産生菌拡大の背景には,第三世代セファロスポリン系抗菌薬の乱用があります.第三世代セファロスポリン系抗菌薬は抗菌スペクトルが広いことが強みですが,例えばブドウ球菌の治療にこの抗菌薬を使い続ければ,本来疾患とは関係のない細菌にも選択圧がかかり耐性化が起こります.
厚生労働省が公開している薬剤耐性ワンヘルス動向調査2021によると,家畜由来大腸菌の第三世代セファロスポリン系抗菌薬耐性は5-15%台なのに対し,犬猫は約27%が耐性となっており,ヒトの28%に迫る数値となっています.危機的状況には変わりませんが,2018年の犬猫における耐性率は40%台だったので、耐性率を下げてきているというポジティブなデータでもあります.先生方の日頃の御尽力に敬意を表しつつ,弊社も二人三脚で薬剤耐性問題に取り組んで参りますので今後ともよろしくお願いいたします!
毎度毎度になりますが、以下の取り組みにご協力ください。
・抗菌薬を使用しない場合に生命予後が著しく悪化する症例でなければ、抗菌薬を使用しないアプローチを行う
・抗菌薬を使用する場合は細菌培養検査及び感受性検査を実施し、その結果に則した適切な抗菌薬を処方する
・院内感染を防ぐために徹底した手洗い&消毒を実行する
・院内スタッフ、ペットオーナーに耐性菌に関する啓蒙活動を行う
未来の動物まで救うために、一緒に頑張って行きましょう🍀
補足:ESBL産生菌の治療にはピペラシリン・タゾバクタムやセファマイシン系抗菌薬が有効な可能性があります.カルバペネム系抗菌薬を温存するため,ご一考いただけましたら幸いです.
参考文献:
・白川崇大, 2017, -動物用抗菌性物質を取り巻く現状(XIII)- 動物用抗菌剤の各論(その2) セファロスポリン系抗生物質
・薬剤耐性菌研究会HP, 耐性菌Q&A
・荒川宜親, 2013, セフェムの構造上の特徴と分類
・厚生労働省, 薬剤耐性ワンヘルス動向調査2021
・AMR臨床リファレンスセンターHP, 2017, 各種耐性菌の話 他
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